アイヌ語のローマ字表記(カナ表記)、発音について
アイヌ語の母音は日本語と同じa i u e o,アイウエオの5つです。音価は、いずれも日本語の母音と似てます。ただし u は、日本語のウよりも唇を丸めて突き出すようにして奥で調音され、オのように聞こえることもあります。
アイヌ語の子音は、k, s, t, c, n, h, p, m, y, r, w, ' の12種となります。
アイヌ語の音節について、その組立を調べてみると、以下のようになっています。
(1)単音一つで出来ているもの。(母音)型
例 a, i, u, e, o
(2)単音二つで出来ているもの。(子音+母音)型
例 ka, sa, ta, pa など。
(3)単音二つで出来ているもの。(母音+子音)型
例 ak, as, at, an, ap など。
(4)単音三つで出来ているもの。(子音+母音+子音)型
例 kar, tak, pas, sar, nan など。
ここで注意されるのは、アイヌ語の音節は必ず1個の母音が中心になってできており、母音の前後には子音があり、子音だけの音節はないということです。
子音音素は12個ありますが、白老アイヌ語単語集では、アイヌ語の「開音節(母音で終わる音節)」のローマ字表記とカナ表記は、以下の通りになります。(正確には、母音が先頭にある場合は、声門閉鎖音 ' がその前にあるという学説がありますが、便宜的にここでは、声門閉鎖音 ' はないものとして扱ってます。)
a-, i-, u-, e-, o- 〜 ア, イ, ウ, エ, オ ka-, ki-, ku-, ke-, ko- 〜 カ, キ, ク, ケ, コ sa-, si-, su-, se-, so- 〜 サ, シ, ス, セ, ソ ta-, tu-, te-, to- 〜 タ, トウ, テ, ト ca-, ci-, cu-, ce-, co- 〜 チャ, チ, チュ, チェ, チョ na-, ni-, nu-, ne-, no- 〜 ナ, ニ, ヌ, ネ, ノ ha-, hi-, hu-, he-, ho- 〜 ハ, ヒ, フ, ヘ, ホ pa-, pi-, pu-, pe-, po- 〜 パ, ピ, プ, ペ, ポ ma-, mi-, mu-, me-, mo- 〜 マ, ミ, ム, メ, モ ya-, yu-, ye-, yo- 〜 ヤ, ユ, イエ, ヨ ra-, ri-, ru-, re-, ro- 〜 ラ, リ, ル, レ, ロ (a)r, (i)r, (u)r, (e)r, (o)r 〜 ラ, リ, ル, レ, ロ wa-, we-, wo- 〜 ワ, ウエ, ウオ n 〜 ン k, t, p, s, m, y, w 〜 ク, ツ, プ, シ, ム, イ, ウ |
カ行音の子音は日本語とほぼ同じですが、カとガの区別はありません。また、音節の尾音 -k は、無破裂なので、日本人はよく聞き漏らします。
サ行音の子音は日本語とほぼ同じですが、シャとサの区別はありません。また、音節の尾音 -s は、通常 sh(シ)のように発音します。
タ行音の子音は日本語とほぼ同じですが、タとダの区別はありません。ツという音節はなく、その代わりにトウ tuという日本語にない音節があります。おおよそ英語の two や today の最初の音と同じです。また、音節の尾音 -t は、無破裂なので、日本人はよく聞き漏らします。
ローマ字でca, ci, cu, ce, co と表記する音は日本語の チャ, チ, チュ, チェ, チョと同じ音です。
ナ行音、ハ行音、マ行音の子音は日本語とほぼ同じです。
パ行音の子音は日本語とほぼ同じですが、パとバの区別はありません。また、音節の尾音 -p は、無破裂なので、日本人はよく聞き漏らします。
ヤ行音の子音は日本語とほぼ同じです。イエ ye という音節は日本語にありません。これは、エ1文字と同じ長さになるように発音します。
ワ wa は、日本語のワと同じですが、ウエ we 、ウオ wo などは日本語にない音節です。これも、イエ ye と同じように1文字の長さになるように発音します。
アイヌ語の重母音には、
i) アイ, ウイ, エイ, オイ
ii) アウ, イウ, エウ, オウ
の2種がありますが、アイヌ語の音韻組織上からいえば、
i) ay, uy, ey, oy
ii) aw, iw, ew, ow
と前述した単音二つで出来ているもの--(母音+子音)型にすぎません。
単語の最後に来る p, t, k, s, m は、プ, ツ, ク, シ, ム のようにカタカナ表記では、字体を小さくして表します。
また、 音節の尾音 -r は直前の母音(ア,イ,ウ,エ,オ)の音色に従って、ラ,リ,ル,レ,ロ にひびくので、原則としてそのように表します。
音節内で、ti, wi, uw, iy の結合は起こりません。
次の2つの音節の接点では、以下のように音素交換します。
-n + y- --> -yy- -n + m- --> -mm- -n + p- --> -mp- -n + s- --> -js- -n + w- --> -nm- -r + c- --> -tc- -r + n- --> -nn- -r + r- --> -nr- -r + s- --> -ss- -r + t- --> -tt- -t + i- --> -ci- |
その他の音韻変化として以下のものがあります。
(1)音韻脱落
1 アイヌ語には、母音の重出をさけるという、かなり目立つ強い傾向があります。
i) 同じ種類の母音がつながって現れると、それらを一つに発音してしまうことが多いです。
例 kera 味 + an ある --> keran おいしい
ii) 異種の母音が隣り合って現れると、初めの母音を追い出してしまうことが多いです。
例 ci- 我々の + e 食う + -p もの --> cep 魚、とくにサケ
2 同種の子音が隣り合って現れると、その一つが追い出されることがあります。
例 o- そこに + sik 目を + kote 結びつける --> osikote 惚れる
3 子音と母音の板ばさみになった h は、よく姿を消します。
例 itak 彼物言う + hawe その声 --> itakawe 彼が言ったこと
4 子音と母音とに挟まれた y は落ちます。
例 kor 持つ + -yar させる --> korar 持たせる
(2)音韻添加
1 名詞の所属形の強調形として h が挿入されます。
例 tek 手(概念形): teke 彼の手(以下、所属形): tekee: tekehe
2 母音の重出を避けるため、y が挿入されることがあります。
例 i- それ(栗など)を + uta まく --> iyuta まきものをする
3 母音の重出を避けるため、w が挿入されることがあります。
例 u- お互いを + osurpa 捨てる --> uwosurpa すてあう、夫婦別れする
アイヌ語のアクセントは、日本語と同様、高低アクセントですが、北海道の多くの方言で次のような傾向にあります。
1)第1音節が開音節(母音で終わる音節)ならば、アクセント核は第2音節にある。(こちらの語が圧倒的に多い。)
2)第1音節が閉音節(子音で終わる音節)ならば、アクセント核は第1音節にある。(例外が少ない。)
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